タイの宅配便市場、栄枯盛衰の状況 その2 【タイ:物流市場】

多くの小規模事業者は徐々に市場から姿を消すか、大手資本に買収される可能性があります。
中堅規模の事業者も、生き残るためには新たなパートナーを探すか、医薬品、生鮮食品、書類など、スピードが要求されるニッチ市場に特化するなど、ビジネスモデルの転換が求められています。
大手でも撤退を決めた企業も現れています。
・PTT Public Company Limited(PTT)
PTTグループは今後、自社の強みを活かして収益を生む事業に集中すると述べました。
最近では、果物の鉄道輸送など、物流事業から完全撤退しています。
今後は、主力事業と関連性があり、グループ内で相乗効果を生める領域のみに注力する方針です。
PTTはかつて物流分野へ拡大を試み、2022年10月6日にタイ証券取引所(SET)へ、サイアム・マネジメント・ホールディング(SMH) が100%出資するグローバル・マルチモーダル・ロジスティクス社(GML) の設立を報告しました。
資本金は2億3,000万バーツで、タイ国内外の輸送ネットワークの統合を目的としていました。
2023年には、農業市場機構(オー・トー・コー) と連携し、農産物や消費財の鉄道輸送を通じて輸出市場の拡大を目指しました。
これにより、国際経済と接続する物流ネットワーク を構築し、タイ農産物の地域市場への参入を後押しする狙いがありました。
・SCG、物流事業を閉鎖 赤字続きで撤退
The Siam Cement Public Company Limited(SCC)も、収益の見込めない事業から撤退しました。
SCG Express(通称「Kuroneko Yamato」)による物流事業もその一つです。
SCGの社長兼CEO、タマサック・セタウドム氏はタイの経済紙クルンテープ・トゥラキットに対し、
事業自体は成長していたものの、財務的なリターンが乏しく、今後どれだけ資金を投入する必要があるのか分からないと語りました。
同氏は、物流事業よりも収益性の高いポリマーリサイクル事業に注力すべきと述べ、長期的に価値を生むために、より優れた選択をする必要があると強調しました。
SCGは、企業全体のコスト削減を進めると同時に、採算の取れない事業の閉鎖や資産売却を進める方針です。
商務省事業開発局の登録情報によると、SCGエクスプレス社は2016年9月22日に設立され、資本金は14億6,300万バーツでした。
通常の宅配便に加え、温度管理が必要な食品の配送にも対応し、拡大するEC市場のニーズに応えていました。
しかし、同社は継続的な赤字を計上しており、
2023年:1億8,400万バーツの赤字
2022年:2億4,700万バーツの赤字
2021年:2億1,200万バーツの赤字
2020年:2億1,600万バーツの赤字
2019年:3億500万バーツの赤字
となっています。
2016年当時、SCGグループは、巨大宅配市場に目をつけ、既存のロジスティクス網を活かせると考え、
日本の宅配大手・ヤマトグループ(クロネコヤマト)と合弁事業を開始しました。
両社は資本金6億3,300万バーツで「ヤマトアジア株式会社」を設立し、SCGが65%、ヤマトが35%を出資し、SCG Expressとしてスピード配送事業を展開しました。
このSCG Expressでは、SCGのB2B物流網とヤマトの配送技術を組み合わせ、以下の4つの主なサービスを提供していました。
・温度管理型パッケージ配送(COOL TA-Q-BIN):ヤマトの技術を用いた「クールコンテナ」により輸送中も温度管理を維持。
・家庭向け宅配(TA-Q-BIN):自宅での荷物集荷、翌日配達のサービス。
・企業間の書類・荷物配送(DOCUMENT TA-Q-BIN)
・代金引換サービス(TA-Q-BIN COLLECT)
また、サービスエージェントと呼ばれる荷物受付拠点を全国に拡大し、コミュニティ密着型で配送ネットワークを広げようとしました。
しかし残念ながら、SCG Expressは消費者にとって定番の選択肢にはなりませんでした。
たとえば、1kg未満の荷物は25バーツからと安価に見えるものの、バンコク都市圏では35バーツ、地方では55バーツと割高感がありました。
さらに、地方配送には2〜4日かかることがあり、他社の1〜3日配送と比べて見劣りしたことも、利用者獲得に苦戦した要因と考えられます。
さらに市場では、Shopee が独自の配送部門「SPX Express(Thailand)」を設立するなど、競争がますます激化し大手企業がしのぎを削る中、SCG Expressの存在感は次第に薄れていきました。
SCGが事業参入した2016年から8年後の2024年、同社はついに事業撤退を表明しました。
この背景には、世界経済の激動、中東での戦争、米中対立、バーツ高、そして石油化学業界の不振が影響しており、SCGはコスト削減と不採算事業の整理を進めざるを得ませんでした。
その結果、赤字事業の閉鎖と資産売却を含む構造改革が打ち出されました。
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