ラオスの市場調査をする前に担当者が抑えておきたい基礎知識
ラオスに進出する企業のご担当者が最低限知っておきたいラオスの市場調査に関する基礎知識をまとめてご紹介します。
1 ラオスの概要データ
東南アジアで唯一海に隣接しない内陸国、ラオス人民民主共和国、通称ラオスは、東南アジアインドシナ半島の内陸部に位置する共和制国家です。国土面積は236,800平方Kmで日本の本州ほどの広さです。北に中華人民共和国、西にミャンマー、東にベトナム、南にカンボジア、タイと国境を接します。首都はヴィエンチャンになります。
近年、同国は中国やタイの投資環境の増加、急速な経済成長、電力開発などで日系企業から「タイ+プラス1」として工場を設立する動きも進み、注目を集めています。
国・地域名 ラオス人民民主共和国 Lao People’s Democratic Republic
面積 236,800平方キロメートル(日本の63%)
人口 677万人(2013年IMF人口調査)
首都 ヴィエンチャン(人口:79万人(2013年ラオス統計局)
言語 ラオ語(タイ語に近い言語) (少数民族の統計不十分)
宗教 宗教は上座部仏教が大半で、アニミズムやその他の宗教が少数となっています。
正式名称は、公式の英語表記は、 Lao People’s Democratic Republic 略称はLao P.D.Rとなります。
ラオスの地理はインドシナ半島の中央部に位置し約70%が高原や山岳地帯になっています。国土の多くが山岳で占められており、隣国に比べて比較的森林資源が多く残っています。同国内のプー・ビア山(標高2817メートル)が最高峰の山になります。
ラオスの南側にはインドシナ半島の中を流れる国際河川メコン川が流れます。中国国土となるチベット高原に源流として中国の雲南省~ミャンマー・ラオス国境~タイ・ラオス国境~カンボジア~ベトナムを通り南シナ海に抜ける大型河川です。メコン川はラオスとミャンマーとタイとの国境をなしています。
2 ラオスの民族構成
ラオスの民族に関してラオス政府はラオス国籍を持つ者を一様にラオス人として定義しています。よって公式には少数民族は存在しないものの、低地ラーオ族70%、丘陵地ラーオ族20%、高地ラーオ族10%と定義付けています。2013年の人口は677万人であり、2000年以降は年10万人規模で増加しています。また100万人を越える大都市が無いのが特徴です。
言語に関してはラオ語が公用語となっています。地方では各小数民族語が使われています。ラオ語とタイ語は同一言語に属するため、ラオスではタイのTV番組が流れ、ラオスのWEBサイトもタイ人が読めるなど方言に近い言語感覚になります。
東南アジア各国で展開している華僑人口で、ラオスの場合はおよそ20万人~40万人規模とされています。タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピンなどと比較すると 少ない数字ですが2009年にはSEA GAMEのため、中国資本で建設されたNational Sports Complex(2万人収容)など
華僑系資本が続々と進出してきています。
※SEA GAMEとは、東南アジア最大のスポーツイベント、「東南アジア競技大会」でSouth East Asia Games=SEA GAMES シーゲームと呼ばれています。1959年に第一回大会がタイで開催されて以降タイでは合計6回も開催されていますが、ラオスは2009年が初めての開催国でした。
3 ラオスの経済成長率
ラオスの経済成長率は IMFの統計データに寄れば
実質GDP成長率は2011年+8.0%、2012年+8.2% 2013年 +8.1%の成長率でした。
名目GDP総額は、2011年 80億USドル、2012年 94億USドル 2013年 101億USドル と増加しています。
一人あたりのGDPは 2011年 1,236USドル、2012年 1,414USドル 2013年 1,534USドルとなっています。
※IMF統計データ2013年など
ラオスは世界平均でも経済力が大変低いレベルで最貧国(Least developed country後発開発国)にカテゴライズされる国となっています。
※東南アジアではラオス、ミャンマー、カンボジア、東ティモールが該当。
国際連合が2009年に定めた後発開発途上国と認定する3つの基準は
「1」所得水準が低いこと。一人当たりの国民総所得:GNIの3年平均推定値992米ドル以下。
「2」人的資源に乏しいこと。HAI:Human Assets Indexと呼ばれる指標が一定値以下。
HAIは、カロリー摂取量、健康に関する指標、識字率に基づく。
「3」経済的に脆弱であること。 経済的脆弱性を表すEVI:Economic Vulnerability Index値が一定以下であること。
EVIは農産物の生産量安定性、輸出安定性、その他で算出される。ラオス経済はこれまで主要産業は農業で国内人口の78%が従事しGDPの41%を占めていましたがEIU(Economist Intelligence Unit)の2013年第4四半期レポートによると、2012年のラオスのGDP構成はサービス産業(37.1%)、製造業(31.3%)、農林業(26.0%)としています。近年、水力発電事業などが牽引し高成長を続けています。
ラオスの直接投資は前年比+52.9%増の26億ドルと推計されていて、主な投資国である中国、タイ、日本などから資源エネルギーや不動産関連を中心に幅広く投資が増加しています。
同国は1975年にラオス人民民主共和国が成立、社会主義政策を進めるもソビエト連邦の改革と呼応して1986年には市場原理の導入、対外経済開放を進める新経済メカニズムが導入されました。1997年隣国タイで始まったアジア通貨危機はラオス経済にも大きなマイナスの影響を与え、通貨が大きく下落しました。※ラオス国内ではタイ・バーツ、ラオス・キープ、アメリカ・ドルの3つの通貨が流通しています。
ラオスの水力発電は”東南アジアのバッテリー”と呼ばれ生産された電力の80%は高圧送電線を介してタイやカンボジアへと売電・輸出されています。
ラオスの物価上昇率は2011年+7.6% 2012年+4.3% 2013年 +6.4%と比較的安定して増加しています。
ラオスの総貿易額の金額(ドルベース)では
輸出 22億7,070万USドル (2013年IMF)
輸入 30億5,500万USドル (2013年IMF)
と大幅な輸入超過になっています。
貿易品目に関しては
輸出上位品目 金属類(50.4%)、レアアースメタル等(17.0%)、野菜類(14.7%)、
輸入上位品目 鉱物製品(27.5%)、機械類(23.9%)、輸送機器類(16.7%)、金属類(8.9%)
となっています。
4 ラオスの政治体制
ラオスの政体はマルクス・レーニン主義を掲げるラオス人民革命党による社会主義国型の一党独裁制が敷かれています。政府の政策決定は9名で構成される党の政治局、49名で構成される党の中央委員会で意志決定されます。
1975年ラオスは王政を廃止してラオス人民民主共和国の建国が宣言されました。同大会の決議により、国家主席職が設置され、国家元首と規定されています。この国家主席は国民議会で選出され任期は5年。
2014年現在ラオス国家主席はチュンマリー・サイニャーソン(Choummaly Sayasone)氏です。同氏ラオス人民革命党書記長、2006年第8回党大会で書記長に選出。国民議会において国家主席に選出され2011年3月の第9回党大会で書記長に再選されています。※次回は2016年。
ラオスの議会は国民議会と呼ばれ、一院制(132名の議員)の議席となります。2011年に第7期国民議会総選挙が行われチュンマリー党書記長が国家主席に再任された他,トンシン首相,トンルン副首相兼外相,パーニー国民議会議長が再任されています。
5 ラオスの魅力とデメリット
ラオスは2013年に世界貿易機関(WTO)に加盟しました。ここ数年平均して年率+7~8%前後の経済成長を続けてきました。
2012年のラオス統計局の発表ではラオスの主要貿易相手国・地域(構成比)は
輸出相手国では
1位:タイ(54.3%)
2位:豪州(20.5%)、
3位:ベトナム(12.6%)
4位:中国(6.4%)
5位:EU27(2.8%)
輸入相手国では
1位:タイ(41.8%)
2位:中国(21.6%)、
3位:ベトナム(17.5%)
4位:EU27(10.9%)
5位:日本(2.4%)
となっています。
ラオスの魅力には
- 中国、タイ等における人件費の高騰からの回避国
- 低コストの労働力 労働者コストは100ドル~200ドル/月給
- 外資優遇政策
- メコン経済圏でのインフラ構築、道路整備
- 電力コストが安い
などがあります。
またラオスの懸念材料では
- 人口が600万人規模、まだボリュームゾーンの小さい中間層
- 法制度の未整備 、汚職腐敗などのイメージダウン
1:中国、タイ等における人件費の高騰からの回避国
中国やタイが一人あたりGDPが5,000USドル近くになったことで低労働コストを求め、タイ、中国などにすでに進出済みであった大手製造業、大手物流業などは一部機能をラオスやカンボジアへシフトし始めています。
ラオスは法定最低月額賃金が約78ドル/月額(2012年1月以降)となり経済特区の整備も進んでいます。2015年にはASEAN経済共同体のメンバーとして域内の貿易が自由化します。また東西経済回廊による物流リンクの拠点としての位置づけを高める政策が進んでいます。
同国では国道の舗装やメコン川の新規架橋等、交通インフラの整備が進んでいますがタイなどと比べるとまだこれからの水準です。
日系企業が参加するラオス商工会議所も78社(2012年度)となっています。大手企業だけでも トヨタ紡織やニコン、かつらメーカーのアデランスが2013年進出を決定。漢方薬のツムラが出資するラオツムラLao Tsumura(農業・加工業)は100%出資現地法人として2010年に設立。
隣国と比較するとカンボジアは労働力が豊富だが、東南アジア諸国で最も電気代が高い欠点が。一方のラオスは、電気代がカンボジアの30%ですが、労働力人口が少ない欠点があります。
2:低コストの労働力 労働者コストは80ドル~200ドル/月給
ラオスの労働コスト、インフラコストはアセアン諸国と比較しても低コストであることが魅力の1つとなっています。
一般工職のワーカーで月額基本給は首都ビエンチャンで最低賃金はラオスの最低賃金は62万キープ(約82ドル)となっています。バンコク(タイ)366米ドル、ホーチミン(ベトナム)173米ドルと比較しても低いものの、タイ国境に近いため、最低賃金では雇用出来ない環境もあります。またラオスでは労働争議、ストライキなどが少なくライン停止などのリスクがほぼ無いこともメリットとして挙げられています。
3:外資優遇政策
ラオスへ進出する企業向けには税制面の優遇:法人税の一定期間免除等を受けられる経済特別区を設定していて、2009年にラオス投資法が、2011年にはラオスSEZ法が成立しています。
サワン・セノ経済特区は輸出加工区と自由貿易区と特恵サービス・物流センターの機能の2地区から構成されています。第2メコン国際架橋に隣接するサイトA(305ha)には、トレードセンター、ホテル、工場、国境管理施設、住居の機能を集中させています。サイトB(20ha)には工場、倉庫、カーゴターミナル、税関を誘致する計画です。
4:メコン経済圏でのインフラ構築、道路整備
ベトナム連絡陸路、中越陸路、東西経済回廊、南部経済回廊などベトナム、ラオス、カンボジア、タイなどをつなぐインフラが構築されています。大メコン圏(GMS:Great Mekong Subregion)としてカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム、中国南部の6地域はADBアジア開発銀行などの支援を受け経済協力開発プログラムを進めています。
その中で経済回廊インフラ構築は域内のヒト・モノ・カネの大動脈としての役割を進めるためダナン(ベトナム)~ムクダハン(タイ)~モーラミャイン(ミャンマー)の東西経済回廊、ブンタウ(ベトナム)~ホーチミン(ベトナム)~プノンペン(カンボジア)~シアヌークビル~バンコク~ダウェイ(ミャンマー)のGMS南部経済回廊
東西経済回廊は、タイとラオス国境をつなぐ第2メコン友好橋が2006年開通して以降、タイ・ラオス・ベトナム間の物流ネットワークが深まりインドシナ半島における経済大動脈として今後の役割が注目されているインフラです。長期的にベトナム~カンボジア~タイをつなぐこれらの道路インフラがカンボジア経済の成長を後押しすると予想されています。
5:電力コストが安い
ラオスは「インドシナ半島のバッテリー」と呼ばれており、メコン河水系の豊富な河川による水力発電のポテンシャルは18,000MWから30,000MWに上ると言われています。この水力発電を自国で発電しているため電力コストが安い原因となっています。
しかし、ラオスの2013年時点の電力設備容量は2,978MWとなっていてまだ電力開発力が小さい状況です。ラオスの電力輸出量は増加を続けていてタイ、ベトナム、カンボジアへ売電しています。背景には 2009年から水力発電所の開発を進めていて
NamTheun2(1088MW)
Nam Ngum2(615MW)
Nam Lik1,2(100MW)などの水力発電所が相次いで完成させています。
今後も近隣国が製造業、サービス業で成長するに従って電力需要が増加していくことも同国の売電分野が大きくなる可能性があります。
懸念材料では
またラオスの懸念材料では
■ 人口が600万人規模、まだボリュームゾーンの小さい中間層
ラオスではまだ一人あたりGDP水準がようやく1500USドル(2013年:1534USドル)に届いたレベルで東南アジアの他国に比べまだまだ消費者の所得水準はもっとも低いレベルです。首都のビエンチャンでも3,000ドル台と言われています。
ラオスはアセアン10カ国の中で人口で第8位、名目GDPで第10位の位置にあり、2014年4月のIMFのWorld Economic Outlookでは2014年度予測+7.5%の経済成長を達成する見通しです。しかし経済規模が小さいこと、中間層もこれからと言うことでサービス産業などもこれからの成長を期待されています。
また賃金が低くとも1,000人以上の雇用は難しく、隣国のタイへの出稼ぎ者が多い背景から、タイの賃金以上に賃金を支給しないと戻って来ないケースも多くあります。
■ 法制度の未整備 、汚職腐敗などのイメージダウン
ラオス政府を中心に法制度の整備が進められていますが、同国の行政手続は基準が不明確で手続の運用も窓口担当まで浸透していないケースも多く有り、不透明な面があります。また役人レベルでの汚職/腐敗の話も多く、問題発生時の対応や解決に時間を奪われるケースもあります。
2013年にようやくWTO加盟を果たしました。実際にWTO加盟申請したのは1997年で申請以来およそ15年を経ての実現しました。これはASEAN諸国最後の加盟国でした。
※ミャンマーは1995年WTO加盟。
ラオスはようやく国際経済社会に認知されるようになりましたが一方でラオスの投資関連法制度は新しく、運用面で相互に整合性がとれていなかったり法令が徹底されていなかったりするケースもあります。
6 ラオスの歴史
ラオスの初の統一王朝
現在のラオ族は、中国国内を次第に南下し、現在の雲南省定住後さらに南下し、1353年に統一王朝、「ラーンサーン王国」を建国しました。
1574年 タウング王朝(ミャンマー)の侵攻後、王都への入城を許しヴィエンチャンは陥落。その後再独立を果たしますが混乱が続きます。
1707年 ルアンパバーン王国の分離・独立後、三国時代に入ります。
1779年 ヴィエンチャン王国とルアンパバーン王国を属領下に置いたシャム(タイ)の侵攻を受け、他の二国と同様にシャムの属領となりました。
19世紀半ばにフランス人がインドシナ半島に進出し始めた頃には、タイの支配下で1893年~1905年にはラオスの保護国化を完了し、フランス領インドシナが完成しました。
1940年、1941年の日本軍による仏印進駐が始まります。
1945年 3月日本軍による仏印武装解除後、独立・祖国・国民を構想する動きが活発になります。
1953年 完全独立を達成。
しかし独立後、長期にわたる内戦が続き1975年のサイゴン陥落後、左派:ぺテート・ラオは王政の廃止を宣言、社会主義のラオス人民民主共和国が成立しました。ラオス王国からラオス人民民主共和国への移行は大きな衝突は発生することなく粛々と行われました。
1986年 ベトナムに倣った経済開放化政策を導入、1988年には断絶していた中国との関係を改善、
1997年 アセアンに正式加盟を果たしました。
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